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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和30年(ヨ)165号 決定

(一六五号事件)(一六九号事件)

申請人(被申請人) 利昌工業株式会社

被申請人(申請人) 利昌工業労働組合

主文

(本件当事者である利昌工業株式会社及利昌工業労動組合を便宜上会社及組合と夫々略称する)

本案判決の確定する迄

一、組合は、会社の役員、其代理人弁護士、組合員以外の会社従業員、会社と商取引関係にある純然たる第三者が、別紙目録記載の会社塚口工場に出入することを妨害してはならない

二、組合は、会社又は其の許可を得た取引先なる純然たる第三者が、前記工場から原料及資材等の搬入、製品其他の出荷を行ふことを妨害してはならない

三、組合員は、別紙物件目録中、(イ)、工員食堂(木造スレート葺平家建、壱棟、建坪四拾五坪)(但し其南部七、五坪の炊事場を除く)、(ロ)、右食堂に到る同工場南側裏門よりする別項の通路、(ハ)、同工場正門外側の部分を除き、其余の同工場部分に立入つたり、又は之に対する会社の占有及使用を妨害してはならぬ(別紙図面参照)

四、会社は、組合が前記第三項に於て立入を禁止された其余の工場の部分に於て、言論に依る説得及団結に依る示威を以つて、組合脱退者である会社従業員に対し組合の為め争議参加又は協力を勧誘することを妨害してはならない

五、会社は、組合が第三項記載の工員食堂中炊事場を除いた北半の三十七、五坪の部分を組合の諸会議に使用することを妨害してはならない

六、前項の食堂に到る通路として、会社は其の費用を以つて、寄宿舍と浴場間に南北に設置した有刺鉄線付バリケードから右食堂に到る最短距離の部分を巾参尺に渉り切断して、之を入口として、同巾の通路を設けねばならない此際会社は其通路の両側に、其費用を以つて右バリケードと同じ高さの障壁を設けることが出来る(別紙図面参照)

七、本件当事者の委任を受けた執行吏は、以上の命令の趣旨を公示し、該命令に違反する諸行為又は事態の発生を排除しなければならぬ

八、訴訟費用は各当事者の自弁とする

(注、無保証)

申請の趣旨

会社は

一、主文第一項と同趣旨

二、主文第二項と同趣旨

三、主文第三項に於て除外された工員食堂及通路を含む塚口工場全部に対し同趣旨

組合は

一、被申請会社は別紙物件目録図面斜線部分に設置した有刺鉄線付バリケートを搬去しなければならぬ(別紙省略)

二、被申請会社は、申請組合が別紙物件目録記載の被申請会社塚口工場構内に於て、言論による説得、又は団結による示威によつて申請組合脱退者たる被申請人会社従業員に対して、申請人組合えの復帰、同組合の行動に同調する為めの勧誘をなすことを妨害してはならぬ

三、被申請会社は申請人組合が、別紙目録図面記載の工員食堂を従前通り組合の諸会議に使用することを妨害してはならない(同上)

理由

当事者双方の主張、其の答弁及其相互の反駁は、多岐厖大に亘り、之を詳記することは早期解決を要する本決定の許さないところであるから、茲には単に主文由来に関係ある部分に限り、全疎明資料及争なき事実を綜合参酌して、次の様に判断する。

第壱、本件第一次ストに至る迄の経過

本件会社は創立以来三十四年の歴史を有し、或種の電気絶縁材料については独専的製造を営み、斯界では其特殊な製品としての声価を維持し、当初の利倉一家の経営からして今日の隆昌を見たが、依然として同族的色彩は濃厚で、昭和二十一年八月に労働組合結成の気運があつたが、素より当会社の歓迎するところとならずして指導者に対する圧迫に依る其の脱落により成長を遂げず、序いで昭和二十四年頃の組合運動も会社側の希望退職と云ふ形で、之を崩壊させてしまつた。

其後は社長自身の信念である、組合員の為めには「組合を作らない方が良い」と云ふ主張は堅持されて、昭和三十年四月十六日には自身従業員を招集して、組合運動なるものの非を説得して、其結成に反対の意向を明瞭にしたが、夫れにも拘らず本件組合は内外の要望に応じて同月十四日の結成決議に依り組織された。之を慶ばない会社々長初め首脳役員は、同月十五日に記載された、会社に関する毎日新聞の記事を、会社の名誉を毀損するものとして、之を同新聞に抗議する代りに、組合幹部の素材提供として其責任全部を之に負はし、其引責を求め、一方組合員には組合幹部の斯る措置を非とする書面に署名を強要し、引いて組合脱退を為す様にと暗に之を慫慂したが組合員は之を不快として応じなかつた者の方が大多数であつた。

組合は結成と同時に会社の示した就業規則に不当不満なものがあるとして、抗争を初め争議を続けていたが終に同年五月二日、双方共同声明を発して各自の落度を自認すると云ふ方法で、一応の平和を恢復した。

ところが会社に於ては同年五月十四日突如として拾名の職場転換及解雇を発表した。其中に有力な組合幹部は殆んど包含されていた為め、再度紛争を惹起し、其の当否を繞つて両者は紛擾を始め、其結果組合は同年五月三十日兵庫地労委に之を不当労働行為として調停を申入れることを決定したが、其後会社に反省の色ありとして提訴を中止した。

併し会社は終に社命を以つて配置転換を断行し其理由の説明要求には人事権の侵犯として之を拒否し続けた。併し右社命を受けたものは社命に抗して其服従を拒否して終つたので其闘争は熾烈の度を加へた。

一方組合は同年四月十九日賃金引上の要求を含めて二十四項に渉る要求を会社に提出したが、会社側は新聞問題の責任を追窮して之に対抗し、団交は度々持たれたが、何の奏効を見ず遷延されるのみであつた。

第弍、第壱次スト(同年五月二十三日から同月三十日迄)

終に組合は同月二十三日に其要求貫徹の為めに第一次ストに突入し、同年五月二十九日迄之を決行したが、同日双方は地労委の斡旋で終に協定成立し解雇の取消、ベースアツプ一三%増額、其実施は双方協議と云う線で妥結した。

第参、第一次スト解決後第二次スト決行迄(同年五月三十日から同年七月二十六日迄)

然るに其直後右十三%の配分について双方の意見が対立し、度々の団交は容易に奏効せず、其間原液工場のワニス引火、其消火に従事した者の火傷入院事故発生、電気乾燥機の不審発火、火傷者と交替すべき組合員の就労拒否、同年六月二十五、六日的場製作所及昌立工業株式会社に対する受註品の出荷妨害、時間外労働に関する双方協定書の破棄等頻発する事故の為め、第一次スト解決の協定は完全に実施されず、組合は会社の態度を以つて、徒に指導幹部の排斥に依つて組合の崩壊を策するものとして、同年六月三十日健全な組合成長の為め、(イ)十三%ベースアツプに対する会社の一方的な独善案を撤回すること、(ロ)火傷者に対する休業手当四十%及見舞金弍万円宛の支給、(ハ)夏期手当二、五月分給与の要求を掲げて、地労委に斡旋を申入れた。

一方会社も七月十八日人員整理外三件の斡旋申請を掲げて地労委の仲介を求めていた。

第四、第弍スト突入後(同年七月二十七日以後)

併し双方は何れも素より相互に之を容れず組合は同月二十七日第二次ストを宣言した。爾来双方は、組合切崩しピケ運動、私宅のへデモ、商品資材搬出拒否、入門証制定、拡声器による妨害、電話使用の拒否、組合員の夜間私宅訪問に依る脱退勧説、又は文書に依る同種勧説、投石、窓硝子破損等を以つて益々其紛争は小児病的対個人的、私情的、私憤的、感情的にと戦術は末稍へと推移して行つた。

一方組合は同年八月二日会社の大阪営業所に於てもストに這入り、其結果同年九月三日、大阪地方裁判所は会社の申請を一部容れて仮処分決定を下した。

以上は本件争議の見取図的全貌的態様である。

第五、ロツクアウト

前記第二次スト突入後昭和三十年八月二十七日迄は組合に於ては本件工場に昼間自由に出入していたことは従来と何の変りはなく、夜間も参、四名を定置して警備に当てて居たところ、会社は翌二十八日(日曜日)午前三時半頃八木組及工場長始め組合員計二十九名を以つて、トラツク参台に積載した資材及食糧を本件工場に搬入し場内を消燈した上其浴場及食堂等に安眠していた組合員参、四名を、人夫数名で逮捕して守衛室に拉致監禁し、同組合員と外部との連絡を遮断し置き、其間に、寄宿舍と浴場間に有刺鉄線附バリケードを設置し、同工場に南側からする出入を遮断し、一方組合旗を撤去し、組合の書類及行商の品物を押収し、同時に、「本日午前八時より二十四時間塚口工場を閉鎖する、依つて利昌工業労働組合及外部応援団体の立入を禁止する、云云」とする通告を発した。

而して右実力に依る工作が終ると前記抑留組合員は追放されたが、其急報に接した組合員は続々、同工場に馳付け、同日午前五時頃、即ち前記閉鎖時刻である同日午前八時に到らないのに、正門から這入つた組合員数名は、会社の警備員等の為め腕力を以つて之を門外に突出されて、正門は厳重に閉され、組合員に於て、長期閉鎖するならば組合旗や私物を搬出したい旨陳情しても聽容れず、改めて同日午後三時から団交に依つて之を決する旨解答した。右の交渉に於て、闘争委員蟻山某は背部を殴打され、腕を捻上げられ、其他の組合員も、会社の警備員の為め殴打足蹴にせられ、組合員拾数名は負傷し全治三日より五日間の傷害を受けた者もあつた。其の様にして、暴力に届した組合員は已むなく工場外に退避したのであつた。

叙上の事実を前提として、会社のロツクアウトに基く、工場内立入禁止の申請部分の当否を按すると

ロツクアウトは之を労働争議に於て対等の原則上、労働者の争議権に対抗する、使用者の権利と認める、又之は正当なる争議行為として争議状態の存在する限り、スト前に於ても、此の権利は行使し得るものと解し、必ずしも防禦的でなければならぬものとは解しない。

併しながら、ロツクアウトは物的施設に対する実力的支配が伴はねばならぬと解する者に反対する。

ロツクアウトを以つて市民法上の所有権乃至占有権の効力と解することは、社会法的、団体法的概念である斯の種の権利を、既成の平面的な個人間の既成概念でしか理解出来ないものの陥る未熟短見な謬見であるとする。

ロツクアウトは社会法的団体法的、社会政策的な新な概念で使用者の争議対抗権として、単に其の生産設備及之に附随する諸施設の使用から、労働者を遮断する作業の供給拒否の権利である。従つて其旨の意思表示を為すのみで十分である。之に依つて使用者は、労働者の労働力受領遅滞の責を免れることになる。

然れども斯の事と市民権的所有権乃至占有権とは、全然別箇の概念であるから、若し使用者に於て自己の所有権乃至占有権が侵害せられ、又はせられんとする危険ありとするならば、其の市民法的権利の行使として之が保護を国家に求め得ることは勿論である。

然らば本件に於て、会社がロツクアウトと称して、前記認定の様な自己の実力による占有権保持乃至回収の行為は適法として保護せられるものかの問題が残る。

右会社の行為中、「ロツクアウト」の宣言の点は、勿論有効であるが其の宣言以外の部分は違法であつて、却而刑責を負はねばならぬものがある。正当防衛、緊急避難若くは正当業務の範疇に少しも這入らない。

ロツクアウトは意思表示のみで十分で、間然するところはないが、其名に匿れて犯罪阻却原因ありとすることは許されない。斯る事由の存否は労働法を離れて市民法的観点から別箇に判断されねばならぬ問題である。

仍て進んで按ずるに本件工場に対する所有権及占有権が会社に存することは争ない。若し仮りに会社のみに之が排他的に専属するとしても、其保持乃至回収は紊りに自力を以つてすることを許されないのは労働争議中と雖も変りはない。必ずや其救済は訴訟法的手続を国家に対して、履践しなければならぬ、保全手続の問題とせられるのは専ら此の面に於てのみであつて、ロツクアウトの問題とは本来何の関係もないのである。

会社に排他的に占有権があつたとし、且つ組合の占有を不法占拠としても、真夜中である午前三時半頃多数を頼み、機械力と暴力を以つて所謂不法占有者を逮捕拉致、監禁して、然も暴行傷害を加へて之を保持乃至回収することが権利の正当な行使であると主張することは許されない。「已む得ざるに出てたる行為」でもなければ、「正当の業務に依る」行為でもないことは勿論自力救済の要件は全然存しないのである。

百歩を譲つて、其主張の様にロツクアウトに実力が伴ふを要するとしても、其実力の行使は適法なものでなければならぬ、違法な手段に訴へてもロツクアウトなるが故に許されるものと解すならば国家の治安は如何にして保たれるか。

会社の本件ロツクアウトが正当なる旨の主張は之を排斥すること論を竢たない。況んや労働者は仮令使用者の委任に基くものとしても適法なる工場の占有者である(当裁判所は労働者の占有は使用者の夫と競合的と解するが)決して不法占有者ではない、其の者に対する占有の保持又は回収に自力救済の許されないことは勿論暴力に依つて之を遂行するは如何にしても許されるところではない。

何れの点からしても会社の本件工場の占有の保持乃至回収は違法である。宜しく夫れこそ仮処分を以つて其目的を達すべかりしものである。

然れども右違法な占有の保持又は回収を原因として、現に一つの既成事実が其後今日迄樹立され、現在一応の新な平和が持続されている。此の新な平和な状態が其起原の違法に拘らず樹立せられていると云うことは、起原的には好ましくないが事実として之を認めない訳に行かぬ。

而して占有権とは現在の平穏なる事実に対する一つの仮定的保護であるとすれば、之を破ることに依る旧秩序の回復的紛擾と之を保持することに依る平和との利害を勘案し、本件に於ては遺憾ながら現在の新な一応の秩序を尊重することにする。

斯の事は詭弁に響くかもしれぬが、組合に於てスト突入に依り作業供給の受領を拒否している現状と、私物を搬出し終つている現在では、改めて潔癖的に又過多的に正義感を貫く必要はないと考える。

仍て主文第一項の如く一応、会社の現在の占有状態を是認し、組合の阻害行為を防止することにした。

又同第二項は仮令占有権が会社及組合の双方に有るとしても、会社の原料資材又其の製品の搬出行為は、適法で、之を妨害することは許されず、従来之を阻止された事実があるので、将来も其危険あるを憂い之に対処する意味で、其妨害行為を禁止する次第である。ピケツトで之を阻止し得ると為すかもしれぬがピケツトは対人的な争議権で、対物的なものではないから、本件の物的なものに対する仮処分申請拒否の問題にはならぬ。

主文第三項の食堂及之に到る通路を除いての仮処分も、前叙の次第で之を許容することにする。

第六、ピケツテイング

組合は第二回スト突入と同時に、会社正門前にピケツトラインを敷いて、組合脱落者の説得に団結の示威を以つて平和的手段を執つていることは認められるが、其組合運動の幼稚な為めか、命令不撤底の為めか兎角、旗竿や、腕力や正当な示威範囲を逸脱した行為が、会社の役員や、会社の資材及製品に向けられたことが、疎明上認められる、之はピケツト権の不当行使であるから、厳に之を慎み、之に渉らないピケツテングは争議権の行使として之を尊重せねばならぬ。

会社は前掲の如く組合員に対し、或は夜間私宅訪問、文書の勧誘又は利益の誘導を以つて、其組合員の脱退を計り、其の奏効の結果は相当数の脱落者を獲得していること疎明上にも明白であるから、之に対抗するピツケテングとしても、其正当行使の範囲に止る限り、会社は之を妨害してはならぬ、之主文第四項の許容せられる所以である。而して其の場所について工場正門の外側をも許した理由は、元来会社のロツクアウトが違法で之を無効として本来工場の内部に於けるピケツトをも許さるべきものであるが、前顕説示の如く、組合に於て労働力提供拒否を宣言している限り、工場正門外に於てするを以つて十分なりとし、工場内部に於てする場合の紛擾を虞れるときは之を以つて其の必要性は十分に満足されるものとする。

第七、食堂の使用について

本件食堂は最近会社の資材置場や、会合の席として使用され、本来の用途には使用されていず、昭和三十年四月二十六日から、組合の会合の為めにも使用させて来たが、其の手続は当初許可願として一々許可制にしていたのを、第一次ストの五月二十三日以後は最高闘争委員が之に常駐し来つて、会社も之を黙認していた、六月初旬右ストの解決後一坪半位のバラツクを寄宿舍の東横に設置して、之を其組合事務所として使用する様に会社から申入れたが、手狭の故を以つて組合は受諾しなかつた。其結果工員食堂は依然として事実上の黙認の儘使用されていた、唯届出丈は之を要するものとなつていた。会社が之を必要とした理由は主として組合に対する情報蒐集や、賃金査定と保管の必要の為めであつた。

然しながら今日、スト突入とロツクアウト決行後に於ては、会社は情報の蒐集も賃金査定の必要もなくなつた、唯其の保管の必要はあるが組合の排他的占有を許容するものではないのだから、其保管の必要は自己の占有権に基いて十分に之を行使出来る。

況んや会社の占有保持乃至回収の方法は本来不法であるから、元来其完全なる排他的独占的占有は之を許容すべき筋合でもないことを考量すべきである。併し之も事案の必要性及緊急性からして、主文第四項の限度に於て双方の申請を調和するを相当とする、即ち之を命令する所以である(唯其場所的範囲について食堂の炊事場の部分は、組合に於て従来之を使用していなかつたから除外し、工員食堂に至る通路バリケードを一部切取り、巾三尺の最短なものを設置することにした)

第八、有刺鉄線付バリケートの設置及其撤去の申請

前叙本件ロツクアウトの正当性について説示した様に、会社がロツクアウトとして本年八月二十八日午前三時半に為した工場閉鎖行為は、暴力に依つて強行されたものであるから、其のロツクアウトが、労働法上其意思表示として留る点のみ有効であるが、所有権乃至占有権の市民権的行使の部分は、一定の法律上の手続を無視した違法行為であるから無効であるとしたのである。

従つて其行為の結果設置せられた本件有刺鉄線付バリケートは、組合の申請通り之を撤去さすのが当然であるけれども、前顕説示の様に其占有の保持乃至回収の方法は違法であつても、今日は夫より相当の日時も経過しているし、組合も罷工に依り労働力の提供を拒否して、工場設備の利用を差当り必要とせず、其の争議行為は工場内に立ち入らなくても可能の状態にあるところ、之を工場内に迄及ぼすときは、第二次スト前の様に工場の建物乃至設備について諸種の事故及其の他紛擾を生じ、其の為め却而本件争議の解決を無用に遅延さす危険が多分に存すから、会社の占有権行使となす自力救済を違法となし乍らも、現在の占有状態を一応安定した秩序として、其の現状を変更しないことにした。

換言すると此の現状を変更してまで旧態を恢復する仮処分としての必要性と緊急性の存在を認めることが出来なかつた訳である。

依つて此の点の組合の申請を却下することになつたが、前段の様に此のバリケートは、組合申請に係る食堂使用の為め一部撤去を命ずることにした。

第九、結語

本件当事者双方の多岐な申請と厖大な資料を通鑑するに、両者とも無用の磨擦のみ頻発させて、本来の目的である争議の経済的解決に主力を集中していない恨みがある。殊に会社側に其点の観えるのは如何なる訳か、資料に依ると会社経営者が極度に「組合運動」を忌嫌し、之を有害視し、専ら之を弾圧せんとし、之が為めに争議の解決は一に組合指導者の排撃を以つて達せられるが如きことを他に漏している様な点は近代資本主義が許多の反省を繰返えしつつ発展して来ている今日の段階と、労働者の人権が出来る丈け尊重され、且つ健康で文化的な生活権が保障されている現代であることに思を致し、更に暴力革命を回避し、階級闘争が平和裡に遂行されんことを切望する者からして観ると、叙上の様な経営者の態度は声を大して猛省を促さなけれはならないところではあるまいか。其の点の反省こそ本件争議の早期の解決のモーメントとなると観たは僻眼か。

更に本件第一次ストの解決となつた地労委の斡旋案について、最後の見届け(アフター、ケーヤー)が行われていたならば、第二次ストは避けられるものでなかつたか。

要するに斯の種経済闘争を法廷に於ける、法律闘争で解決せんと考へ、其の勝敗に争議の審判を仰いでいる一般的風潮は邪道とせられねばならぬ。

(裁判官 日下基)

(別紙省略)

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